内容説明
ヨーロッパの植民地支配を象徴するオリエンタリズム。その直接的な引き金になったのは、じつは、ナポレオンのエジプト遠征であった。ナポレオンに率いられた遠征軍はそのまま巨大な〈古代文明観光団〉にほかならなかった。兵士つまり観光客は、そこに、生きている聖書の挿絵を見いだして興奮したのである。かくして、ルナンの『イエス伝』ができあがる。実証主義の成果というより、それは、〈ナポレオンによるエジプト観光ツアー〉の成果にほかならなかった。しかも、生きている聖書の挿絵のなかから浮かび上がってきた人間イエスは、同時に妖艶な踊子をも引き連れていたのである——サロメだ!フローベールの『ヘロディア』、ワイルドの『サロメ』、さらに、モローの、ビアズリーの、クリムトのサロメ。19世紀末は、冷酷な情熱がそのまま形象化された宿命の女、サロメのイメージに覆われている。『ヘロディア』と『サロメ』の新訳とともに、フランス文学の俊才・工藤庸子が、いまここに、独創的なサロメ論、オリエンタリズム論を書き下ろした。これは、エドワード・サイードを超えて、19世紀ヨーロッパ文学にまったく新しい照明を当てる試みである!